CTD観測器
CTDかんそくき
海水の電気伝導度(Conductivity)・水温(Temperature)・水深(Depth/Pressure)を同時に連続計測する標準的な海洋観測機器。採水瓶(ニスキンボトル)を多段に取り付けた CTD ロゼットが海中に吊り降ろされ、各水深での採水と物理データの取得が同時に行われる。あらゆる海洋調査の基本装置。
ROV
アールオーブイ
Remotely Operated Vehicle (遠隔操作無人探査機) の略。母船からケーブルで接続され、遠隔操作で深海の映像撮影やサンプル採取を行う。有人潜水艇より安全で長時間の作業が可能。「かいこう」や「ハイパードルフィン」など、日本の海洋研究開発機構 (JAMSTEC) も多数保有。
アルゴフロート
アルゴフロート
浮力を調整しながら自律的に浮沈し、水温・塩分・圧力などのプロファイルデータを収集して衛星送信する自動漂流型プロファイリングフロート。アルゴ(Argo)国際プログラムで全海洋に約 4,000 基が展開されており、深海の海洋観測網の基盤をなす。通常 0〜2,000m を繰り返し昇降する。
アルビン号
あるびんごう
米国ウッズホール海洋研究所が 1964 年から運用する有人潜水調査船。1977 年にガラパゴス沖で熱水噴出孔と化学合成生態系を発見し、1986 年にはタイタニック号の船体調査を行うなど、深海科学の歴史的発見の多くに立ち会ってきた。改修を重ねて現在も運用される現役最古参の潜水船。
アンコウ類
アンコウるい
頭部の突起 (イリシウム) の先端にある発光器で獲物を誘引する深海魚の総称。雄が雌に寄生的に融合する極端な性的二形でも知られる。深海の暗黒環境における生物発光の代表的な利用例であり、深海の象徴的な生物の一つ。
生きた化石
いきたかせき
太古の姿をほとんど変えずに現代まで生き残った生物の通称。深海はその代表的な「避難所」で、シーラカンス (約 4 億年前から存在) やラブカ、オウムガイなどが知られる。環境変化が小さく捕食圧も低い深海が、進化の速度を緩めたと考えられている。
伊豆・小笠原海溝
いずおがさわらかいこう
伊豆諸島から小笠原諸島の東側に延びる、最深部約 9,780m の海溝。日本海溝の南に連続し、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下へ沈み込む境界にあたる。日本周辺で最も深い海域の一つで、超深海帯の生物調査や深海探査機の試験潜航の舞台となってきた。
栄養塩
えいようえん
硝酸塩・リン酸塩・ケイ酸塩など、植物プランクトンの成長に必要な海水中の無機塩類。表層では光合成によって消費され、深層には分解された有機物由来の栄養塩が豊富に蓄積される。湧昇によって深層の栄養塩が表層へ戻る海域は、世界有数の好漁場となる。
AUV
エーユーブイ
Autonomous Underwater Vehicle (自律型無人潜水機) の略。あらかじめプログラムされた経路を自律的に航行し、海底地形測量やデータ収集を行う。ROV と異なりケーブル接続が不要で広範囲の調査が可能。近年は AI を搭載した高度な自律判断ができるモデルも開発されている。
S-net
えすねっと
日本海溝沿いの海底に敷設された、世界最大規模の地震・津波観測網。総延長約 5,500km の海底ケーブルに 150 の観測点を備え、東北沖から房総沖までを監視する。東日本大震災の教訓から整備され、海溝型地震の早期検知と津波の直接観測を可能にした。
エルニーニョ現象
えるにーにょげんしょう
太平洋赤道域の貿易風が弱まり、ペルー沖の海面水温が平年より高くなる現象。深層からの冷たい湧昇が止まることで発生し、世界中の気象に連鎖的な影響 (テレコネクション) を及ぼす。逆に水温が低くなる現象はラニーニャと呼ばれる。海洋と大気の結びつきを示す代表例。
塩分濃度
えんぶんのうど
海水 1kg 中に溶解している塩類の総量を示す指標。単位は psu または g/kg で、外洋の平均値は約 35 psu。蒸発・降水・河川流入・海氷の生成・融解などによって変化し、海水密度を決める主要因の一つ。深海では圧力・水温と組み合わせて密度成層と循環を規定する。
塩分躍層
えんぶんやくそう
水深方向に塩分濃度が急変する層。河川の流入が多い海域や極域の融氷期に顕著に形成される。水温躍層とともに海水の密度成層を決定し、深層への物質輸送や海洋循環のパターンに大きな影響を与える。北極海では特に発達した塩分躍層が見られる。
遠洋性堆積物
えんようせいたいせきぶつ
陸源の影響がほとんど届かない大洋の中央部で、表層から沈降してきた微生物殻・粘土鉱物・宇宙塵などが積もった堆積物。堆積速度は非常に遅く(数 mm〜数 cm /千年)、その組成から過去の海洋環境・気候変動を復元するための重要な古環境記録となる。
オタマボヤ類
おたまぼやるい
オタマジャクシ形の体で「ハウス」と呼ばれる粘液質の巣を分泌するプランクトン性の尾索動物。目詰まりしたハウスは捨てられて深海へ沈み、マリンスノーの主要な供給源となる。深海の炭素輸送への寄与が近年注目されており、巨大なハウスを作るオオタルマワシ類似種も発見されている。
オフィオライト
オフィオライト
古い海洋地殻と上部マントルの断片が大陸地殻上に押し上げられ露出した岩体。枕状溶岩・玄武岩・斑糲岩・ダナイトなどの岩石が特徴的な層状構造を示す。オマーンやキプロスのオフィオライトが有名で、過去の海洋地殻・熱水活動・プレートテクトニクスを研究する上で極めて貴重。
親潮
おやしお
千島列島に沿って南下し日本の東岸へ達する寒流。栄養塩が豊富でプランクトンを育み、魚を育てる「親」となる潮であることが名前の由来。黒潮とぶつかる三陸沖の潮目は世界有数の好漁場となる。冷たく重い水は深層へ沈み込み、北太平洋の中深層水形成にも関与する。
カイアシ類
かいあしるい
体長 1〜10mm ほどの小型甲殻類で、海洋で最も個体数の多い動物群の一つ。動物プランクトンの主要構成員として食物連鎖を支える。深海性の種も多く、超深海帯からも発見されている。地球上のあらゆる水圏に分布し、総生物量は昆虫に匹敵するともいわれる。
海溝
かいこう
プレートの沈み込み帯に形成される細長い海底の溝状地形。水深 6,000m 以深に達し、地球上で最も深い場所を含む。太平洋を取り囲む環太平洋火山帯に多く分布し、マリアナ海溝、日本海溝、フィリピン海溝などが代表的。地震や津波の発生源としても重要。
かいこう
かいこう
JAMSTEC が運用した無人探査機 (ROV)。1995 年に世界で初めてチャレンジャー海淵の最深部 (約 10,911m) への無人探査を成功させ、超深海の泥から微生物を採取した。2003 年にビークル部が亡失したが、後継機が開発され日本の超深海探査を支え続けている。
海溝型地震
かいこうがたじしん
沈み込むプレートの境界面が一気にずれ動くことで発生する巨大地震。2011 年の東北地方太平洋沖地震 (M9.0) が代表例で、海底の大変動は津波を引き起こす。震源域が深海底にあるため、DONET や S-net のような海底観測網が早期検知の要となっている。
海山
かいざん
海底から 1,000m 以上そびえるが海面には達しない孤立した水中火山体。世界の海底には 3 万以上存在するとされる。独特の流れの収束が起き、周辺に比べて生物多様性が高い「生物のオアシス」として機能する。また、コバルトリッチクラストなど希少金属の付着も多い。
海底拡大
かいていかくだい
中央海嶺においてマグマの湧出により新しい海洋地殻が形成され、左右に広がっていく現象。プレートテクトニクスの根幹をなすプロセスであり、1960 年代に実証された。拡大速度は年間数 cm で、大西洋は年々広がり続けている。
海底火山
かいていかざん
海底に存在する火山。地球上の火山活動の約 8 割は海底で起きているとされる。2021 年の福徳岡ノ場の噴火では大量の軽石が日本沿岸へ漂着した。噴火が海面に達しない深海の火山活動は観測が難しく、海山の形成や熱水噴出孔の熱源として深海環境を形づくる存在でもある。
海底観測システム
かいていかんそくシステム
地震計・圧力計・カメラ・流速計・水温センサーなどを海底に恒久設置し、リアルタイムでデータを陸上に送信するシステム。日本の DONET(防災科学技術研究所)や Dense Oceanfloor Network System for Earthquakes and Tsunamis が代表例。南海トラフの地震・津波早期警戒に重要な役割を担う。
海底地震探査
かいていじしんたんさ
音波(エアガンなど)を海中に発射し、海底および海底下の地層からの反射波を受信して地下構造を画像化する手法。石油・天然ガスの探鉱、メタンハイドレートの分布調査、断層の位置把握などに広く利用される。高解像度 3D 地震探査は海底下数 km の詳細な地質構造を明らかにできる。
海底地滑り
かいていじすべり
海底斜面で大量の堆積物が一気に崩落する現象。地震や火山活動、堆積物の過剰蓄積が引き金となる。規模が大きい場合には乱泥流や津波を引き起こすことがある。ノルウェー沖のストレッガ海底地滑りは体積約 3,200km³ に達し、先史時代の大津波を引き起こしたと推定されている。
海底地形測量
かいていちけいそくりょう
海底の地形を測定・地図化する科学技術。マルチビームソナー、衛星高度計、LIDAR などを用いる。2023 年時点で高解像度の測量が完了している海底は全体の約 25% に過ぎず、「Seabed 2030」プロジェクトにより 2030 年までの全海底マッピング完了を目指している。
海底熱水鉱床
かいていねっすいこうしょう
熱水噴出孔から噴き出した金属成分が海底に沈殿してできた鉱床。銅・鉛・亜鉛・金・銀などを高品位に含み、次世代の金属資源として期待される。日本周辺では沖縄トラフや伊豆・小笠原海域で多数発見されており、採鉱試験も実施されたが、生態系への影響評価が大きな課題となっている。
海洋酸性化
かいようさんせいか
大気中の CO₂ が海水に溶け込んで炭酸となり、海洋の pH が低下する現象。産業革命以降、海洋の平均 pH は約 0.1 低下した。炭酸カルシウムの殻や骨格を持つサンゴ・貝類・有孔虫などに深刻な影響を与え、深海の石灰質堆積物の溶解促進や生態系の変化も懸念されている。
海洋地殻
かいようちかく
海底を構成する厚さ約 6〜7km の地殻。玄武岩質で大陸地殻より薄く重い。中央海嶺で生まれ、海底拡大によって移動し、海溝で地球内部へ沈み込む。最も古い海洋地殻でも約 2 億年前のものしかなく、地球表面で常に更新され続けている「ベルトコンベア」といえる。
海洋無酸素事変
かいようむさんそじへん
地質時代に海洋の広大な領域で溶存酸素が枯渇した事件。白亜紀に複数回発生したことが知られ(OAE1a・OAE2など)、大量絶滅や黒色頁岩の堆積と関連する。CO₂ 増加による温暖化・成層強化・有機物大量沈降が原因と考えられ、現在進行中の海洋脱酸素化との比較から将来予測に活用される。
化学合成
かがくごうせい
太陽光ではなく硫化水素やメタンなどの化学物質からエネルギーを得て有機物を合成する過程。熱水噴出孔や冷湧水域の周囲に独自の生態系を成立させる基盤であり、光合成に依存しない生命の存在を証明した。深海生物学における最も重要な発見の一つ。
カルデラ (海底カルデラ)
かるでら
巨大噴火でマグマが抜けた後に地面が陥没してできた大きな凹地。海底にも存在し、鹿児島沖の鬼界カルデラは約 7,300 年前に破局的噴火を起こした。海底カルデラの内部には溶岩ドームや熱水活動が見られることがあり、「ちきゅう」や ROV による調査が続けられている。
カワスズメ類(深海性)
カワスズメるいしんかいせい
クサウオ科(Liparidae)に属する深海魚。2023 年にマリアナ海溝で水深 8,336m での遊泳が記録され、現在知られている最深部で生息する魚類。体はゼラチン状で水圧に適応し、骨格は高圧下でも破砕されない柔軟な構造を持つ。超深海帯の食物連鎖の頂点に位置する。
環流
かんりゅう
海盆規模で循環する巨大な海流の輪。北太平洋では黒潮・北太平洋海流・カリフォルニア海流・北赤道海流が時計回りの亜熱帯環流を構成する。環流の中心部は風や流れが弱く、漂流物が集積しやすい。太平洋ゴミベルトが形成される原因としても知られる。
北大西洋深層水
きたたいせいようしんそうすい
グリーンランド沖などで冷却されて沈み込み、大西洋の深層を南下する水塊。南極底層水とともに地球規模の熱塩循環 (海洋大循環) を駆動する主要なエンジン。この沈み込みが弱まると地球全体の気候に大きな影響が及ぶと考えられており、気候変動研究の最重要テーマの一つ。
逆照明
ぎゃくしょうめい
深海生物が腹部の発光器から光を発することで、上方から見たときに背景の薄明かりに溶け込む擬態戦略。捕食者が下から見上げたとき、獲物のシルエットが打ち消されて発見されにくくなる。多くの中深層魚類やイカ類が利用する高度なカモフラージュ手法。
共生
きょうせい
異なる種の生物が密接な関係を築いて生活する現象。深海の熱水噴出孔周辺ではチューブワームやシロウリガイが体内に化学合成細菌を共生させ、栄養を得ている。この化学合成共生は深海生態系の維持に不可欠な仕組みである。
極限環境生物
きょくげんかんきょうせいぶつ
高温・高圧・強酸・無酸素など通常の生物が生存できない環境に適応した生物の総称。深海の熱水噴出孔 (最高 120℃ 超の環境) や超深海の高圧環境に生きる微生物が代表例。生命の起源や地球外生命の可能性を探る手がかりとして宇宙生物学でも重要視されている。
管クラゲ
くだクラゲ
クダクラゲ目に属する浮遊性の群体動物。単一の個体ではなく、多数の個虫(ゾーイド)が機能分担しながら集合した群体で、全長 40m を超える種も記録されている。地球上で最長の動物ともいわれ、発光能力を持つ種も多い。深海でもよく観察される。
黒潮
くろしお
日本列島の南岸に沿って北東へ流れる世界最大級の暖流。幅約 100km、流速は最大で時速 7km を超え、流量はアマゾン川の数百倍に達する。栄養塩が少なく透明度が高いため黒く見えることが名前の由来。日本の気候・漁業・深層循環への沈み込みにも影響する。
鯨骨生態系
げいこつせいたいけい
死んだクジラが深海底に沈んだ後に形成される局所的な生態系。骨格には数十年にわたって多様な生物が定着し、チューブワームや化学合成細菌も出現する。一頭のクジラが深海底に供給する有機物量は、通常のマリンスノー数千年分に相当するともいわれる。
ケイ質軟泥
ケイしつなんでい
放散虫や珪藻などのケイ酸質(SiO₂)の殻が主体となる深海堆積物。炭酸塩が溶解してしまう炭酸塩補償深度(CCD)より深い海底や、珪藻が大量繁殖する南極海・北太平洋などに広く分布する。石油や天然ガスの起源となる有機物を含む場合もある。
係留観測システム
けいりゅうかんそくシステム
錨と浮力体の間にワイヤーを張り、各水深にセンサーや採水装置を配置して長期観測を行う係留系システム。水温・塩分・流速・化学成分などを連続記録できる。海底から水面まで数 km に及ぶものもある。定点での長期変動を捉えるのに適し、深海循環・海流・気候変動の研究に重要。
好圧性生物
こうあつせいせいぶつ
高圧環境を好む、あるいは高圧環境でのみ生存できる微生物の総称。マリアナ海溝の最深部でも好圧性細菌が発見されており、1,000 気圧を超える極限環境でも生命が存在することを示している。バイオテクノロジーや宇宙生物学の観点からも注目されている。
国際海底機構 (ISA)
こくさいかいていきこう
国連海洋法条約に基づき、公海下の深海底鉱物資源を管理する国際機関。本部はジャマイカ。深海底とその資源を「人類の共同の財産」とする原則のもと、探査ライセンスの発給や環境規則の策定を行う。商業採掘の解禁をめぐる議論の最前線となっている。
コバルトリッチクラスト
こばるとりっちくらすと
海山の斜面や山頂部 (水深 800〜2,400m 前後) の岩盤を厚さ数 cm〜十数 cm で覆う金属酸化物の皮殻。コバルト・ニッケル・白金・レアアースを含み、電池材料の供給源として期待される。成長速度は 100 万年に数 mm ときわめて遅く、一度採掘すると再生しない資源である。
採水器
さいすいき
任意の水深の海水を採取するための装置。ニスキンボトルが標準的で、CTD ロゼットに複数取り付け、目的の深度でトリガーを引いて密封する。採取した海水は栄養塩・溶存酸素・溶存無機炭素・微量金属・微生物などの分析に用いられ、海洋の化学的・生物学的環境の把握に欠かせない。
酸素極小層
さんそきょくしょうそう
水深 200〜1,500m 付近に形成される溶存酸素濃度が極端に低い海水層。表層から沈降する有機物が分解される際に酸素が消費されることで形成される。OMZ とも呼ばれ、この層に適応した独特の生物群集が存在する。気候変動により世界的に拡大傾向にあることが懸念されている。
沈み込み帯
しずみこみたい
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む境界領域。海溝が形成され、巨大地震や火山活動の原因となる。日本列島は複数の沈み込み帯に囲まれており、深海研究と地震研究の両面で重要な場所。海底下の堆積物や岩石の調査が活発に行われている。
JAMSTEC
ジャムステック
海洋研究開発機構 (Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology) の略。日本の深海研究を牽引する国立研究開発法人。「しんかい6500」「ちきゅう」などの探査船・掘削船を運用し、深海生物学・海底地質学・地球科学の幅広い分野で世界的な研究成果を上げている。
植物プランクトン
しょくぶつぷらんくとん
光合成を行う浮遊性の微細藻類。珪藻・円石藻・渦鞭毛藻などが代表的で、地球上の酸素のおよそ半分を生産するとされる。有光帯でしか生きられないが、死骸は深海へ沈降して深海生物の食料となり、炭素を海底へ運ぶ生物ポンプの起点でもある。
深海カメラ
しんかいカメラ
水圧・腐食・暗黒という深海の過酷な環境に耐えるよう設計されたカメラシステムの総称。チタンまたは特殊アルミ合金製の耐圧ハウジングに格納され、LED 照明と組み合わせて使用される。ROV・AUV・ランダー・トウカメラなど様々なプラットフォームに搭載され、深海生物や地形の記録に活躍する。
深海丘
しんかいきゅう
深海平原に点在する高さ数十〜数百 m のなだらかな丘。中央海嶺で海洋地殻が生まれる際の凹凸が起源で、地球上で最も数が多い地形といわれる。堆積物に覆われつつも完全には埋もれず、深海底に変化を与えて生物の分布にも影響している。
深海魚
しんかいぎょ
一般に水深 200m より深い海域に生息する魚類の総称。チョウチンアンコウ、リュウグウノツカイ、デメニギスなどが代表例。高水圧・低温・暗黒・食料不足という環境に適応するため、発光器・大きな口・低密度の体・特殊なタンパク質安定化物質 (TMAO) など独自の進化を遂げている。
深海巨大症
しんかいきょだいしょう
深海に生息する生物が浅海の近縁種に比べて巨大化する傾向のこと。ダイオウグソクムシやタカアシガニなどが代表例。低水温による代謝の低下、捕食圧の減少、高水圧への適応などが原因として考えられているが、明確なメカニズムは解明されていない。
深海掘削
しんかいくっさく
海底に穿孔を行って堆積物や岩石のコアサンプルを採取する科学掘削。地球史・古気候・地球内部構造・地震発生メカニズムなどの研究に不可欠。国際深海科学掘削計画(IODP)が世界規模で推進しており、日本の地球深部探査船「ちきゅう」が中心的役割を果たしている。
深海採掘
しんかいさいくつ
マンガン団塊・海底熱水鉱床・コバルトリッチクラストなど深海底の鉱物資源を採掘すること。電池金属の需要増を背景に商業化への動きが加速する一方、深海生態系への不可逆的な影響を懸念する科学者の声も強く、国際海底機構 (ISA) でルール作りが続けられている。
深海散乱層
しんかいさんらんそう
ソナーの音波を強く反射する、生物が密集した水中の層。主に水深 300〜800m に形成され、ハダカイワシ類や動物プランクトンの大群で構成される。夜になると層全体が表層へ浮上する日周鉛直移動を行い、第二次世界大戦中にソナー技師が「偽の海底」として発見した。
深海層
しんかいそう
水深 4,000〜6,000m に相当する超高圧・低温・完全暗黒の海洋層。溶存酸素は比較的豊富で、クラゲ類・端脚類・魚類などが生息する。水圧は 400〜600 気圧に達し、生息する生物は極端な圧力環境への適応が不可欠。深海底帯の直上に位置する水層。
深海底帯
しんかいていたい
水深 4,000〜6,000m の海底および直上水域を指す生態的区分。深海平原を中心に広大な範囲を覆い、ナマコ類・多毛類・等脚類などの底生生物が生息する。有機物の降下量が少ないため生物密度は低いが、マリンスノーや鯨骨生態系が局所的な栄養源となる。
深海トロール
しんかいトロール
深海の生物を採集するために使用するトロール網およびその操作の総称。開閉式のネットを使って特定の水深帯の生物を選択的に捕獲できる。採集された生物は分類・形態・生化学・ゲノム解析などに供される。漸深層〜超深海帯まで幅広い水深で使われ、新種発見の主要な手段の一つ。
深海平原
しんかいへいげん
水深 3,000〜6,000m に広がる平坦な海底地形。地球表面の約 50% を覆い、地球上で最も広大かつ平坦な地形である。堆積物が厚く積もることで起伏が埋められ、極めてなだらかな地形が形成される。生物の密度は低いが、独自の底生生物群集が存在する。
しんかい6500
しんかいろくせんごひゃく
日本の海洋研究開発機構 (JAMSTEC) が運用する有人潜水調査船。1989 年に完成し、水深 6,500m まで潜航可能。乗員 3 名 (パイロット 2 名、研究者 1 名) で、深海底の直接観察やサンプル採取を行う。世界中の深海域で 1,500 回以上の潜航実績を持つ。
深層海流
しんそうかいりゅう
水深数百 m 以深を流れる海流。主に海水の温度差と塩分濃度差が生み出す密度差によって駆動される (熱塩循環)。北大西洋で冷却された高密度の海水が沈み込み、全海洋を巡る「海洋コンベヤーベルト」を形成する。地球の気候調節に極めて重要な役割を果たす。
深層大循環
しんそうだいじゅんかん
全海洋の深層(水深数百 m 以深)を循環する海流系の総称。南極底層水・北大西洋深層水などの密度の高い水塊が形成・流下し、各大洋の深層を数百〜数千年かけて移動する。熱・塩分・酸素・炭素などを全球に分配し、地球の気候系を維持する上で根幹をなすシステム。
水圧
すいあつ
水の重さによって生じる圧力。水深が 10m 増すごとに約 1 気圧ずつ上昇し、マリアナ海溝の最深部では約 1,100 気圧に達する。深海生物はこの極端な高圧環境に適応した特殊なタンパク質や細胞膜を持っている。潜水機の設計においても最大の技術的課題となる。
水温躍層
すいおんやくそう
水深の増加に伴い水温が急激に低下する層。表層の温かい水と深層の冷たい水の境界に形成される。一般に水深 200〜1,000m に位置し、この層を境に海洋の物理的・化学的・生物学的性質が大きく変わる。深海への熱エネルギーの伝達を制限する重要な構造。
水塊
すいかい
ほぼ均一な水温と塩分を持つ、ひとまとまりの海水の塊。形成された海域の特徴を「指紋」のように保ったまま海洋内部を移動するため、水温・塩分を測ることで深層水の起源や流れを追跡できる。南極底層水や北大西洋深層水が代表的な水塊。
水中グライダー
すいちゅうグライダー
浮力を調整することで浮沈しながら翼で推進力を得る自律型無人水中ビークル。推進にプロペラを使わないため、バッテリー消費が少なく数週間〜数ヶ月の長期観測が可能。水温・塩分・溶存酸素などのデータを収集しながら数千 km を航行できる。海洋監視ネットワークの基幹となりつつある。
水中ビークル
すいちゅうビークル
水中で使用される航行・探査機器の総称。有人潜水艇(サブマーシブル)・遠隔操作型(ROV)・自律型(AUV)・水中グライダー・着底型ランダーなどを包含するカテゴリー。近年はAI・通信・バッテリー技術の発展により能力が飛躍的に向上し、深海探査のコスト低下と範囲拡大を実現している。
生物発光
せいぶつはっこう
生物が化学反応によって自ら光を放つ現象。深海では太陽光が届かないため、獲物を誘引する・捕食者を混乱させる・仲間と交信するなど多様な目的で利用される。深海生物の約 76% が何らかの発光能力を持つとされている。
生物ポンプ
せいぶつポンプ
海洋表層で光合成により固定された炭素が、生物の遺骸・糞粒・マリンスノーとして深海底まで輸送される一連のプロセス。大気中の CO₂ を深海に隔離する地球規模の炭素循環機構であり、地球の温暖化抑制に不可欠。その効率は気候変動・栄養塩供給・生物群集の変化に大きく影響される。
石灰質軟泥
せっかいしつなんでい
有孔虫・翼足類・円石藻などの炭酸カルシウム質の殻が主体となる深海堆積物。炭酸塩補償深度(CCD)より浅い海底に広く堆積し、全深海底の約 48% を覆う。地球の炭素循環において大気中 CO₂ の長期的な固定に関与しており、古気候研究の重要なアーカイブでもある。
ゼラチン質プランクトン
ぜらちんしつぷらんくとん
クラゲ・クシクラゲ・サルパなど、体の大部分が水分でゼラチン状の浮遊生物の総称。体の構造が壊れやすく網による採集が難しいため長く研究が遅れていたが、ROV による観察で深海の中層に膨大な量が生息することが判明。深海生態系の見過ごされてきた主役とされる。
漸深層
ぜんしんそう
水深 1,000〜4,000m に広がる完全な暗黒の海洋層。太陽光は全く届かず、生物は生物発光に頼るか外部からの有機物 (マリンスノー) に依存する。水温は約 4℃ 前後で安定し、魚類・甲殻類・頭足類など多様な生物が生息する。「真夜中帯」とも呼ばれる。
漸深帯
ぜんしんたい
大陸斜面に沿った水深 200〜4,000m の海洋帯。表層の有光帯と深海底の深海帯・超深海帯の間に位置し、急激な環境変化(光・温度・圧力・食料供給)が起こる移行域。チューブワーム・ウニ・ヒトデ・魚類など多様な生物が生息し、大陸棚に比べてあまり調査が進んでいない帯域。
ソナー
ソナー
音波を発射しその反射を分析して水中の物体や地形を探知する技術。マルチビームソナーは海底地形を高精度で三次元マッピングでき、深海探査に不可欠。サイドスキャンソナーは海底面の微細な構造や沈没船の探索にも使われる。
ダイオウイカ
ダイオウイカ
学名 Architeuthis dux。外套長だけで約 2m、触腕を含めると 13m を超える巨大頭足類。世界中の深海に生息するが生態は謎が多く、2004 年に初めて自然環境下での生きた映像が撮影された。スペルマセティクジラに捕食されることもあり、鯨の胃から触腕が発見されることがある。
ダイオウホウズキイカ
ダイオウホウズキイカ
学名 Mesonychoteuthis hamiltoni。体長ではダイオウイカに及ばないが、体重は推定 750kg に達し現存する最重量の無脊椎動物とされる。南極海の深海に生息し、吸盤に鋭いフック状の爪を持つ。2007 年にニュージーランド船が南極で完全な個体を捕獲したことが世界的なニュースとなった。
堆積物フラックス
たいせきぶつフラックス
単位面積・単位時間あたりに深海底へ沈降する堆積物の量。有機炭素・炭酸塩・オパール・リソジェニック物質などの成分ごとに計測される。セジメントトラップを深海に係留することで長期観測が可能。生物ポンプの効率・季節変動・気候変動に応答して大きく変化し、深海生物の食料供給量を左右する。
大陸斜面
たいりくしゃめん
大陸棚の縁辺から深海底に向かって急傾斜する地形帯。水深約 200〜3,000m に相当し、平均傾斜角は 3〜6° だが局所的に急峻になる。海底峡谷や乱泥流が発達し、大量の堆積物が深海底に運搬される経路となる。底生生物の多様性も大陸棚から深海への移行を示す。
大陸棚
たいりくだな
大陸の縁辺部に広がる水深約 200m 以浅の緩やかな傾斜をもつ海底地形。陸地からの堆積物が厚く積もり、豊富な漁業資源や石油・天然ガスを埋蔵する。国連海洋法条約では沿岸国の排他的経済水域の基盤となり、最大 350 海里まで権益を主張できる場合がある。
多金属硫化物
たきんぞくりゅうかぶつ
熱水噴出孔周辺に堆積する銅・亜鉛・鉛・金・銀などを含む硫化鉱物の集合体。ブラックスモーカーが噴出する熱水中の金属イオンが冷やされて沈殿することで形成される。海底熱水鉱床(SMS)とも呼ばれ、陸上鉱山の代替資源として開発が検討されているが、生態系への影響も懸念される。
炭酸塩補償深度
たんさんえんほしょうしんど
海洋中で炭酸カルシウムの溶解速度と供給速度が釣り合う水深。通常 3,500〜5,000m にあり、この深度より深い海底には石灰質殻が残存できず、ケイ質軟泥や粘土が堆積する。大気中 CO₂ 濃度や深層水の化学組成によって変動し、古気候研究の重要な指標となっている。
炭素貯留
たんそちょりゅう
大気中の CO₂ を海洋深部に長期間隔離するプロセス。生物ポンプ・溶解度ポンプ・炭酸塩ポンプの三つのメカニズムが主要な経路。深海に貯留された炭素は数百〜数千年にわたって大気に戻りにくい。地球温暖化対策の観点から深海の炭素貯留能力の維持・評価が急務となっている。
ちきゅう
ちきゅう
JAMSTEC が運用する世界最高水準の深海科学掘削船。掘削深度は海底下最大 7,000m を目指せる設計で、ライザー掘削システムを採用。2005 年の就航以来、南海トラフ・三陸沖・北極海などで世界記録となる深度の海底掘削を達成。マントル到達を目指す「モホール計画」の中核を担う。
着底型探査機
ちゃくていがたたんさき
母船から海中に投下し自由落下で海底に着底して観測を行う無人探査装置。浮力体・重りを組み合わせたシンプルな構造で、ROV の届かない超深海でも展開できる。カメラ・センサー・採集装置などを搭載し、設定時間後に重りを切り離して浮上・回収する。ハダル帯の生物調査に活躍。
チャレンジャー海淵
チャレンジャーかいえん
マリアナ海溝の最深部で、地球上の海洋で最も深い地点。水深約 10,920m。1960 年のトリエステ号、2012 年のジェームズ・キャメロン監督の単独潜航、2019 年のヴィクター・ヴェスコヴォの潜航など、人類の深海挑戦の象徴的な場所。
中央海嶺
ちゅうおうかいれい
プレートの発散境界に沿って海底にそびえる全長約 65,000km の山脈。マグマが湧き上がって新しい海洋地殻が生成される場所であり、地球最大の火山活動の場。大西洋中央海嶺、東太平洋海膨などが代表的で、熱水噴出孔が多く分布する。
中規模渦
ちゅうきぼうず
直径 100〜300km ほどの海洋の巨大な渦。黒潮などの強い海流が蛇行してちぎれることで生まれ、数ヶ月から数年間も維持される。渦の内部では水が湧き上がったり沈み込んだりして、栄養塩や熱、プランクトンを水平・鉛直方向に運ぶ「海の台風」のような存在。
中深層
ちゅうしんそう
水深 200〜1,000m に相当する海洋層。太陽光がわずかしか届かない「薄明帯 (トワイライトゾーン)」とも呼ばれ、昼間は暗く夜間はさらに暗い。多様な発光生物が生息し、日周鉛直移動を行う生物群の主要な活動域でもある。地球規模の炭素循環において重要な役割を担っている。
チューブワーム
チューブワーム
熱水噴出孔や冷湧水域に生息する管状の環形動物。体長 2m を超えるものもいる。消化器官を持たず、体内に共生する化学合成細菌から栄養を得ている。1977 年にガラパゴス沖の熱水噴出孔で発見され、深海生物学に革命を起こした。
超深海生物
ちょうしんかいせいぶつ
水深 6,000m 以深の超深海帯 (ハダルゾーン) に生息する生物の総称。ヨコエビ類、ナマコ類、多毛類などが代表的で、極限的な高水圧・低温・暗黒環境に適応している。近年の探査技術の発達により新種の発見が相次いでおり、地球上で最も未知の生物相の一つ。
超深海帯 (ハダルゾーン)
ちょうしんかいたい
水深 6,000m を超える海洋最深部の帯域。ギリシャ神話の冥界の神ハデスに由来する。地球上では海溝にのみ存在し、総面積は海底全体の 1〜2% ほど。1,000 気圧近い水圧と完全な暗黒の世界だが、ヨコエビ類・ナマコ類・スネイルフィッシュなど固有の生物相が存在する。
潮汐混合
ちょうせきこんごう
潮汐エネルギーが海底地形との相互作用で内部波に変換され、それが砕波して深海の密度成層を混合するプロセス。深海の物質輸送・栄養塩循環・熱輸送に大きく貢献し、熱塩循環の維持にも不可欠。海山・海嶺・大陸棚縁辺部などの複雑な地形域で特に強く発生する。
沈降流
ちんこうりゅう
表層の高密度海水が深層へ沈み込む現象。北大西洋や南極海では冷却・塩分増加によって高密度化した海水が沈み込み、深層水を形成する。この沈降が熱塩循環の「エンジン」であり、大気から取り込んだ CO₂ を深海に隔離する炭素循環の重要プロセスでもある。
津波
つなみ
海底の地殻変動や海底地すべりによって海水全体が持ち上げられて発生する波。波長が数十〜数百 km と非常に長く、深海では時速 700km 以上 (ジェット機並み) で伝わる。海溝型地震に伴うものが代表的で、海底観測網による即時検知と深海の地形調査が防災の基盤となっている。
底質採取
ていしつさいしゅ
海底の堆積物や岩石を採取するための操作およびその装置の総称。グラブ採泥器(表面採取)・コアラー(柱状採取)・ドレッジ(岩石採取)などがあり、目的に応じて使い分けられる。採取された試料は古気候・地球化学・地質年代・底生生物の研究に利用される。
底生生物
ていせいせいぶつ
海底面やその直上、もしくは堆積物中に生息する生物の総称。ベントス(benthos)とも呼ばれ、ナマコ・カニ・多毛類・棘皮動物など多様なグループを含む。水深帯によって群集組成が大きく異なり、深海底のベントスは有機物が乏しい環境に適応した独特の生態を示す。
デトリタス
でとりたす
生物の死骸や排泄物、分解途中の有機物粒子の総称。表層から沈降するデトリタスは深海生態系の最も基本的な食料源であり、ナマコなどの堆積物食者がこれを食べて生きている。マリンスノーはデトリタスが雪のように降り注ぐ様子を指す言葉。
トウカメラ
トウカメラ
母船から曳航しながら海底付近の映像・画像を取得するカメラシステム。ROV や AUV に比べて安価で広範囲を効率よく調査できる。静止画・動画・ストロボ照明・水深・位置データなどを同時記録するシステムが一般的。海底生物の分布調査や地質観察の初期スクリーニングに広く使われる。
島弧
とうこ
海溝に沿って弧状に並ぶ火山島の列。プレートの沈み込みに伴って発生したマグマが海底から成長してできる。日本列島・伊豆諸島・マリアナ諸島はいずれも島弧であり、海溝・島弧・背弧海盆がセットになった構造は西太平洋の特徴的な地形となっている。
動物プランクトン
どうぶつぷらんくとん
カイアシ類・オキアミ・クラゲ類など、浮遊生活を送る動物の総称。植物プランクトンを食べ、魚類や鯨類に食べられる食物連鎖の中継点。多くの種が昼は深く夜は浅く移動する日周鉛直移動を行い、表層の有機物を深海へ運ぶ役割も担っている。
DONET
どねっと
南海トラフの海底に設置された地震・津波観測監視システム。地震計や水圧計を備えた観測点を海底ケーブルで結び、揺れや津波をリアルタイムで検知する。震源に近い海底で直接観測することで、緊急地震速報や津波警報を陸上観測より数秒〜数十秒早めることができる。
トランスフォーム断層
トランスフォームだんそう
中央海嶺を横断する横ずれ断層。海嶺の拡大速度の違いによって形成され、プレート境界の一種。海嶺と海嶺の間では互いに逆向きにずれ動くため大地震を引き起こす。代表例はカリフォルニアのサンアンドレアス断層で、これは陸上に延びるトランスフォーム断層の典型。
トリエステ号
とりえすてごう
1960 年に人類で初めてチャレンジャー海淵の底 (水深約 10,900m) へ到達した有人潜水艇 (バチスカーフ)。ジャック・ピカールとドン・ウォルシュの 2 名が搭乗し、最深部で生物を目撃して「深海に生命は存在しない」という当時の常識を覆した。深海探査史上最大の金字塔とされる。
トリメチルアミンオキシド (TMAO)
とりめちるあみんおきしど
深海魚の体内に蓄積され、高水圧によるタンパク質の変形を防ぐ保護物質。深度が深い魚ほど濃度が高くなるが、蓄積には限界があり、魚類の生息限界深度 (約 8,200〜8,400m) を決める要因と考えられている。魚を煮たときの匂い成分トリメチルアミンの前駆物質でもある。
内部波
ないぶは
海洋内部の密度不連続面(水温躍層など)に沿って伝播する波。表面には見えないが振幅は数十〜数百 m に達することもある。潮汐や海底地形の相互作用で励起され、エネルギーを輸送して海洋の混合を促進する。深海の物質輸送や栄養塩の鉛直混合にも大きく影響する。
南海トラフ
なんかいとらふ
駿河湾から日向灘沖まで続く、水深 4,000m 級の細長い海底の溝。フィリピン海プレートが沈み込む境界で、100〜150 年間隔で巨大地震が繰り返されてきた。海溝 (6,000m 以深) より浅いため「トラフ」と呼ばれる。地球深部探査船「ちきゅう」による掘削調査も行われている。
南極底層水
なんきょくていそうすい
南極周辺の海氷形成に伴って作られる、世界で最も重い (低温・高塩分の) 水塊。海底に沿って各大洋の深海底へ広がり、深海に酸素を供給する地球規模の深層循環の起点となる。温暖化による形成量の減少が観測されており、深海の酸素環境への影響が懸念されている。
日周鉛直移動
にっしゅうえんちょくいどう
多くの海洋生物が昼夜のサイクルに合わせて毎日数百 m の垂直移動を行う現象。夜間は表層に浮上して餌を摂り、昼間は深層に降りて捕食者を避ける。地球規模での炭素輸送にも大きく貢献しており、海洋の「生物ポンプ」の一翼を担っている。
日本海溝
にほんかいこう
東北地方の太平洋沖に南北約 800km にわたって延びる、最深部約 8,000m の海溝。太平洋プレートが日本列島の下へ沈み込む境界で、2011 年東北地方太平洋沖地震の震源域。震災後には海溝軸付近の海底が大きく動いたことが調査で判明し、超深海生物の調査も活発に行われている。
ネクトン
ネクトン
海中を自力で遊泳できる生物の総称。流れに逆らって移動できる点でプランクトンと区別される。魚類・頭足類・海洋哺乳類・海亀などが含まれる。深海のネクトンは低温・高圧・暗黒という極限環境に適応した生理的特徴を持ち、自在に水深帯を移動する種も多い。
熱塩循環
ねつえんじゅんかん
海水の温度(熱)と塩分濃度(塩)の差によって生じる密度差が駆動力となる全球規模の海洋循環。「海洋コンベヤーベルト」とも呼ばれ、数千年をかけて全海洋を循環する。深層水の形成・熱輸送・炭素循環において中心的役割を担い、地球の気候を安定させる上で極めて重要なシステム。
熱水噴出孔
ねっすいふんしゅつこう
海底の割れ目から高温の熱水が噴出する地点。海水がマグマで加熱され、硫化水素や金属イオンを含んだ 300℃ 以上の熱水となって噴き出す。周囲には化学合成を基盤とした独自の生態系が形成され、生命の起源に関する研究でも重要視されている。
背弧海盆
はいこかいぼん
海洋プレートの沈み込みに伴って島弧の背後 (大陸側) に形成される海盆。マグマの上昇により海底拡大が起こるケースもある。日本海・沖縄トラフ・マリアナトラフなどが典型例。活発な熱水活動が見られることが多く、日本周辺の海底熱水鉱床もこれらの地域に集中する。
排他的経済水域 (EEZ)
はいたてきけいざいすいいき
沿岸から 200 海里 (約 370km) までの、沿岸国が資源の探査・開発の主権的権利を持つ水域。日本の EEZ は国土面積の約 12 倍で世界有数の広さを誇り、その大部分が深海である。レアアース泥や熱水鉱床など、日本の海洋資源戦略の基盤となる概念。
ハイドロフォン
ハイドロフォン
水中の音波(圧力変動)を電気信号に変換する水中マイクロフォン。クジラの鳴き声・地震・火山活動・核爆発・船舶の航行音など多様な音源を遠距離で検知できる。水中音は空気中より約 4.5 倍速く伝播し、減衰も少ないため、数千 km 離れた音源の検知も可能。
バチスカーフ
バチスカーフ
深海調査用の自己推進式潜水艇。1960 年にオーギュスト・ピカールの設計したトリエステ号がマリアナ海溝チャレンジャー海淵の最深部 (水深約 10,916m) に到達し、人類初の最深部有人潜航を達成した。ガソリンの浮力と鉄球のバラストで浮沈を制御する独特の仕組みを持つ。
発光器
はっこうき
魚類やイカ類などの体表に存在する光を生成する専用器官。ルシフェリン–ルシフェラーゼ反応によって光を生成し、種によって発光パターン・色・強度が異なる。腹部の発光器は逆照明に、側線部は仲間の識別に、先端の発光器は餌の誘引に利用されるなど多彩な機能を持つ。
表層 (海洋表層帯)
ひょうそう
海面から水深約 200m までの、太陽光が十分に届く海洋の最上層。光合成が可能な唯一の帯域で、海洋生物の大部分がここに集中する。深海の生態系も、この層で生産された有機物の沈降 (マリンスノー) に依存しており、深海を理解する上で欠かせない出発点となる層。
貧酸素水塊
ひんさんそすいかい
溶存酸素が極端に少なくなり、生物の生存が困難になった水塊。有機物の過剰な分解や成層の強化によって形成される。外洋の酸素極小層が温暖化で拡大しつつあることが観測されており、深海生物の生息域を圧迫する「海の酸欠」として国際的な監視対象となっている。
付加体
ふかたい
プレートが沈み込む際に、海底の堆積物が剥ぎ取られて陸側に押し付けられてできた地質体。南海トラフ沿いの付加体は巨大地震の発生と密接に関係する。日本列島の土台の多くは過去数億年の付加体でできており、深海の堆積物が山となって現れた姿といえる。
ブラックスモーカー
ブラックスモーカー
金属硫化物を多量に含む高温 (最高約 400℃) の熱水を噴出する煙突状の構造物。噴出した金属イオンが海水で冷やされて黒い煙のように見えることから名付けられた。周囲に金・銀・銅・亜鉛などの鉱物が沈殿し、海底熱水鉱床を形成する。
プランクトン
ぷらんくとん
水流に逆らって泳ぐ能力を持たず、浮遊して生活する生物の総称。光合成を行う植物プランクトンと、それを食べる動物プランクトンに大別される。深海生態系は表層プランクトンの死骸が沈降するマリンスノーに大きく依存しており、海洋の食物連鎖全体の出発点となっている。
プレートテクトニクス
ぷれーとてくとにくす
地球の表面が十数枚の硬い岩盤 (プレート) に分かれて移動しているという理論。海底の拡大と沈み込みを統一的に説明し、海溝・海嶺・火山・地震の分布を解き明かした 20 世紀地球科学最大の成果。深海底の調査がこの理論の確立に決定的な証拠を提供した。
平頂海山
へいちょうかいざん
頂部が平坦になった海山(ギュヨー)。かつて海面付近に達して波食により山頂が削られ、その後プレート運動で海中に沈んだと考えられている。アメリカの海洋学者ハリー・ヘスが命名した。西太平洋に多く分布し、貴重な鉱物資源を伴うことも多い。
飽和潜水
ほうわせんすい
体内に溶け込むガスをあらかじめ飽和させることで、長時間の深海作業を可能にする潜水技術。水深 300〜400m 級の作業が可能で、潜水士は加圧された居住区で数週間生活しながら作業を行う。海底ケーブルや海洋構造物の工事、潜水艦救難などで用いられる人間の限界に挑む技術。
ホットスポット
ほっとすぽっと
マントル深部から高温の物質が湧き上がり、プレートの動きと無関係に火山活動を起こす地点。ハワイ諸島が代表例で、プレートが移動する間もホットスポットの位置はほぼ変わらないため、天皇海山列のような一直線の海山の列が形成される。
枕状溶岩
まくらじょうようがん
水中で噴出したマグマが急冷されて形成される枕形の溶岩体。中央海嶺の海底火山活動で大量に形成され、海洋地殻の表層部を構成する。地表に露出したオフィオライト中にも見られ、かつての海底が陸上に持ち上がった証拠として使われる。世界中の深海底調査で頻繁に確認される。
マリアナ海溝
マリアナかいこう
西太平洋のマリアナ諸島東方に位置する世界最深の海溝。全長約 2,550km、最深部のチャレンジャー海淵は水深約 10,920m に達する。太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込むことで形成された。深海探査と極限環境生物研究の最重要フィールドである。
マリンスノー
マリンスノー
表層で生産された有機物の粒子が深海に向かってゆっくりと沈降していく現象。プランクトンの遺骸、糞粒、粘液などが凝集して雪のように降り注ぐ様子から名付けられた。深海底の生物にとって最も重要な栄養源であり、地球の炭素循環において深海への炭素輸送を担っている。
マルチビームソナー
マルチビームソナー
船底に取り付けた送受信器から複数のソナービームを扇状に発射し、広範囲の海底地形を高精度で測定するシステム。一度の測深で船幅の 2〜7 倍の幅を同時計測できる。水深・後方散乱強度・底質情報も取得でき、海底地形図の作成や底質分類に活用される。現代の深海探査に不可欠な基本ツール。
マンガン団塊
マンガンだんかい
深海底に点在する直径数 cm〜数十 cm の球状〜楕円状の鉱物集合体。マンガン・鉄を主成分とし、コバルト・ニッケル・銅・レアアース元素を豊富に含む。数百万年かけて形成される。太平洋の深海平原に広大な堆積域があり、次世代の海底鉱物資源として注目されている。
密度成層
みつどせいそう
密度の異なる海水が重力によって層状に分かれている状態。一般に密度が高い(低温・高塩分)水が下層に、密度が低い水が上層に位置する。水温躍層・塩分躍層・pycnocline(密度躍層)がこれを形成し、深海への熱・物質・酸素の供給を制限する一方で、生物の層別分布を決定する。
ムネエソ類
むねえそるい
チャウリオドゥス属などに属する深海魚の総称。細長い牙が口から飛び出し、体に対して異常に大きく開く顎が特徴。体長は最大約 35cm だが、体の数倍の大きさの獲物も丸呑みできる。腹部に発光器を持ち、逆照明にも利用する。中深層〜漸深層に生息する。
メタンハイドレート
メタンハイドレート
メタン分子が水分子の格子構造に閉じ込められた氷状の固体物質。低温・高圧の深海底の堆積物中に大量に存在する。「燃える氷」とも呼ばれ、次世代エネルギー資源として注目される一方、大量放出による急激な温暖化 (クラスレートガン仮説) のリスクも指摘されている。
メンダコ
メンダコ
グリンポテウティス属に属するタコの仲間。頭部の耳状のヒレをゆっくりはためかせて遊泳する姿が、ディズニーの「ダンボ」に似ることから「ダンボタコ」とも呼ばれる。水深 1,000〜7,000m に生息し、タコ目の中で最も深い場所で確認されている属の一つ。
有光層
ゆうこうそう
太陽光が到達し光合成が可能な海洋の表層域。一般に水深 0〜200m の範囲。これより深い層は無光層 (アフォティックゾーン) と呼ばれ、光合成による一次生産が行われない。深海生物は有光層から沈降するデトリタス (有機物粒子) に栄養を依存するか、化学合成に頼っている。
有櫛動物
ゆうしつどうぶつ
有櫛動物門(Ctenophora)に属する浮遊性の動物。8 列の繊毛板(くし板)で游泳し、光を虹色に屈折させることで知られる。クラゲと似て見えるが全く異なるグループで、世界最古の動物の一つとも考えられている。深海を含む全海洋に生息し、多くの種が発光能力を持つ。
湧昇流
ゆうしょうりゅう
深層の冷たく栄養塩に富んだ海水が表層に向かって上昇してくる現象。沿岸湧昇は風により表層水が沖合に運ばれることで発生し、ペルー沿岸・カリフォルニア沖などが典型例。栄養塩の供給によって植物プランクトンが大繁殖し、世界有数の漁場を形成する。気候変動による変化が懸念される。
有人潜水調査船
ゆうじんせんすいちょうさせん
研究者が直接深海に潜って観察・調査を行うための小型潜水艇。日本の「しんかい6500」は水深 6,500m まで潜航可能で、世界で最も深く潜れる有人潜水調査船の一つ。中国の「奮闘者号」は 2020 年にマリアナ海溝で水深 10,909m に到達した。
溶存酸素
ようぞんさんそ
海水中に溶け込んでいる酸素。表層では大気との交換と光合成で補給されるが、深層では生物の呼吸・有機物分解で消費される。酸素極小層では濃度が極端に低くなる。深海生物の分布や活動を規定する重要因子であり、気候変動による深海の脱酸素化(deoxygenation)が懸念されている。
溶存有機物
ようぞんゆうきぶつ
海水中に溶け込んだ有機物の総称。海洋全体の溶存有機炭素量は大気中の二酸化炭素の炭素量に匹敵する巨大な炭素プールで、その多くは数千年も分解されずに深海を漂う。深海の微生物群集の活動や炭素循環を理解する鍵として研究が進む。
ヨコエビ類
よこえびるい
左右に平たい体を持つ小型甲殻類。浅海から超深海まで幅広く分布し、マリアナ海溝の最深部 (水深約 10,900m) でも採集されている超深海帯の代表的生物。深海底では動物の死骸に群がる掃除屋として物質循環を担う。カイコウオオソコエビが特に有名。
乱泥流
らんでいりゅう
大量の堆積物が海水と混合して海底を高速で流下する水中密度流。大陸斜面でのトリガー(地震・過剰堆積)により発生し、時速 70km を超えることもある。海底ケーブルの切断事例も多く記録されている。深海平原に砂泥を広く堆積させ、タービダイトと呼ばれる地層を形成する。
リフト谷
リフトたに
中央海嶺の頂部に沿って形成される細長い谷状の地形。プレートが左右に引き伸ばされることで中央部が落ち込んで形成される。幅数 km〜数十 km、深さ数百 m に及び、マグマの湧出と熱水活動の中心となる場所。東アフリカ地溝帯の海洋版ともいえる地形。
レアアース泥
れああーすでい
レアアース (希土類元素) を高濃度に含む深海底の泥。南鳥島周辺の水深 5,000〜6,000m の海底に世界有数の規模で分布することが確認され、日本の EEZ 内にある国産資源として注目される。超深海からの揚泥技術の確立が実用化への課題となっている。
冷湧水
れいゆうすい
海底面からメタンや硫化水素を含む低温の流体がしみ出す現象、またはその場所。熱水噴出孔と異なり温度は低いが、同様に化学合成生物群集が形成される。メタンハイドレートの分布とも関連が深く、メタンを酸化する微生物マットやシロウリガイの群集が特徴的。