酸素の50%を生む植物プランクトンとは
人間が吸い込む酸素のおよそ2回に1回分は、海に漂う目に見えない微生物が生み出したものです。主役はクジラでもマグロでもありません。顕微鏡でようやく姿を捉えられる植物プランクトンが、地球全体の酸素のおよそ50%を供給しています。青く澄んだ海の色も、深さがつくる光のグラデーションも、突き詰めればこの小さな生命の営みと結びついています。
## 地球の酸素の半分は「海の見えない森」が作る
珪藻(けいそう)や円石藻(えんせきそう)と呼ばれる植物プランクトンは、太陽光を使って光合成を行い、膨大な酸素を放出します。陸の熱帯雨林が「地球の肺」と呼ばれるなら、海面近くに広がる彼らの群れは、それに匹敵するもう一つの巨大な肺です。
その働きは酸素を出すだけにとどまりません。光合成の過程で大気中の二酸化炭素を年間500億トン以上も吸収し、気候を左右する巨大な炭素循環の入り口を担っています。
そして彼らは海の食物連鎖の出発点でもあります。植物プランクトンを動物プランクトンがついばみ、それを小魚が、さらに大型魚や海鳥、クジラへとエネルギーが受け渡されていく。春に栄養分と日照がそろって起こる大増殖「春季ブルーム」は、世界の豊かな漁場を支える土台そのものです。
ただ、この見えない森は時に牙をむきます。特定の種が爆発的に増えれば赤潮や青潮となり、魚介類を窒息させる厄介な存在に変わります。なかにはアレキサンドリウムのように、麻痺性の貝毒を作る危険な種も。命を支える顔と、生態系を脅かす顔。その両方を併せ持つのが植物プランクトンです。
## 海が青いのは水の分子が赤い光を吸い込むから
海の青は、水そのものの性質が生み出した色です。太陽光が海面に届くと、水分子は波長の長い赤やオレンジの光(およそ700ナノメートル)を効率よく吸収します。一方、波長の短い青い光(およそ450ナノメートル)は吸収されにくく、水中で散乱しながら奥へと進んでいきます。私たちの目に届くのは、こうして生き残った青い光なのです。
よく空の青と同じだと思われますが、仕組みは違います。空の青は空気分子による光の「散乱」が主役で、海の青は水分子による光の「吸収」が主役。同じ青でも理由がまったく異なります。
浅い海がエメラルドグリーンに輝くのも、この延長線上にあります。光があまり吸収されず、海底の砂の色が透けて見えるためです。
## 水深200メートルから先は太陽光が消える漆黒の世界
水深が増すほど、海の色は静かに変わります。まず赤い光が失われ、続いて黄、緑と順に消えていき、残った青がいっそう深まります。やがて水深200メートルを超えると太陽光はほとんど届かなくなり、そこから先には光のない深海が広がります。
深海が暗く青いのは、神秘ではなく物理の必然です。届く光が青だけになり、その青さえも吸収されて消えていく境界線。それが水深200メートルという数字に表れています。
南極の氷山が吸い込まれるような青に見えるのも、まったく同じ原理です。氷の結晶が赤い光を吸収し、青い光だけを返すため、巨大な氷塊が深い青をまといます。
## クロロフィルが変える海の色、衛星はそれを宇宙から読む
海の青さは、植物プランクトンの量によっても左右されます。彼らが持つクロロフィル(葉緑素)は光合成のために青と赤の光を吸収するので、プランクトンの多い沿岸の海は緑がかった青に見えます。
反対に、栄養分が乏しく生き物の少ない外洋では、水分子本来の性質が際立ち、吸い込まれるような濃い「オーシャンブルー」が広がります。海の色の違いは、そこにどれだけ生命がいるかを映す鏡なのです。
人工衛星はこの色の差を宇宙から捉えています。海面のわずかな色の変化を読み取れば、植物プランクトンの分布や増減を地球規模で監視できる。一滴の海水を採るより先に、海全体の健康状態がわかる時代になりました。
## 海の色は地球の健康診断になる
海水温の上昇や栄養分の変化は、植物プランクトンの量を静かに変えていきます。彼らが減れば、酸素の供給も二酸化炭素の吸収も、漁場を支える食物連鎖も同時に揺らぎます。海の色がほんの少し変わることは、地球の呼吸が変わる前ぶれかもしれません。
次に海を眺めるとき、その青は単なる水の色ではなく、無数の小さな生命と光が描いた一つの現象として立ち上がってきます。表層の輝く青も、その下に沈む深海の闇も、たどれば同じ循環の表と裏なのです。
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よくある質問
- 植物プランクトンが地球の酸素の半分を作っているというのは本当ですか?
- はい、本当です。植物プランクトンは光合成によって、地球上のすべての陸上植物が生産する量に匹敵する量の酸素を放出していると科学的に推定されています。
- アオウミガメはなぜ生まれた浜辺に正確に帰れるのですか?
- 地球の磁場をコンパスのように感知して自分の位置を把握する「磁覚」という能力を持つと考えられています。生まれた場所の固有の磁場を記憶し、それを頼りに長大な距離を旅して戻ってきます。
- 深海生物は光のない世界で何を食べているのですか?
- 主な食料は「マリンスノー」です。これは、海の表層から降ってくるプランクトンの死骸や動物の排泄物などの有機物粒子で、深海の生態系を支える重要なエネルギー源となっています。
出典
- 資料1: 海の色はなぜ青いのか ― 光と水の相互作用の物理学: 水分子による光の吸収特性、深さによる色の変化、プランクトンと海色の関係など
- 資料2: アオウミガメの一生 ― 1万kmを泳ぐ海の旅人の驚くべき生態: アオウミガメの生態、帰巣本能、現代の脅威(混獲、プラスチック、気候変動)など
- 資料3: 植物プランクトン ― 地球の酸素の半分を作る見えない海の支配者: 植物プランクトンの酸素生産量、CO2吸収量、食物連鎖での役割、赤潮のメカニズムなど