SUBSEA DEEP OCEAN EXPLORER
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35.6°N 139.7°E
DEPTH
0m
SURFACE
深海

サルパ:1日1000m沈む深海の炭素ポンプ

サルパ:1日1000m沈む深海の炭素ポンプ

体長数センチの樽形プランクトン「サルパ」が排出する糞は、1日に1,000メートル以上の速さで海底へ沈んでいく。この異様な沈降速度こそ、地球の炭素循環をひそかに支える鍵だと、ウッズホール海洋研究所(WHOI)の研究は指摘する。

クラゲに似た透明な姿だが、サルパは脊索動物。つまりヒトと同じ系統に属する。海水ごと植物プランクトンを濾し取り、取り込んだ水をジェットのように噴き出して進む。この単純な摂食と推進が、表層の炭素を深海へ運ぶ装置として働いている。

数日で体が倍になる「ブルーム」の爆発力

サルパの生活環は二相に分かれる。単独で漂う有性世代と、数十メートルの鎖状群体をつくる無性世代を交互に繰り返す、複雑な仕組みだ。好条件が揃えば増殖は爆発的で、わずか数日で体長が倍になる個体もある。

この成長速度が、海域を埋め尽くす大発生「ブルーム」を生む。植物プランクトンを片端から濾し取り、自らの組織へ変換していくスピードは、他の動物プランクトンを大きく上回る。

重い糞が炭素を沈める「生物学的ポンプ」

海洋学には「生物学的ポンプ」という概念がある。大気中の二酸化炭素を取り込んだ植物プランクトンが、捕食者の糞や死骸となって深海へ沈み、炭素を長期間封じ込める仕組みだ。

サルパの糞は他の動物プランクトンのものより格段に大きく、重い。だから表層で分解され再び二酸化炭素として放出される前に、1日1,000メートル超の速さで沈降帯を一気に下りきる。炭素を深海の貯蔵庫へ直送する高速エレベーター。大発生した群れが死ねば、炭素を抱えた膨大な死骸もまた海底へ降り積もる。(引用1)

ブルームの予測が立たない、という壁

問題は、いつ・どこで・どの規模のブルームが起きるかを、現在の技術では正確に読めない点にある。サルパが年間どれだけの炭素を深海へ隔離しているのか、その総量は依然として不明だ。

この空白が、気候変動予測の足かせになる。深海への隔離量が分からなければ、地球規模の炭素循環モデルには大きな抜けが残ったままだ。小さなプランクトン一種の挙動が、全球の気候推定の精度を左右する。

2026〜2036年、観測網が動態を追う

ブルームのような広域現象を、一つの研究機関だけで捉えるのは難しい。鍵を握るのは、機関の壁を越えたデータ共有である。

モントレー湾水族館研究所(MBARI)などが参加する観測システム「CeNCOOS」は、2026年から2036年へ向けた戦略計画を公表し、質の高い海洋データの共有と意思決定支援を前面に掲げた。(引用2) ブイ・水中ロボット・人工衛星が集める膨大なデータを束ねれば、これまで取り逃してきたサルパの動きが、ようやく輪郭を現すかもしれない。

透明な漂流者が突きつける海の余白

ゼラチン質の地味な生き物が、気候の安定に欠かせない役回りを担っている——。この一点は、人類が海についてほとんど何も知らないという現実を映す。

深海という最後のフロンティアには、サルパのように想像を超えた役割を秘めた生物が、まだいくつも沈黙したまま漂っている。

この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。

よくある質問

サルパとはどんな生き物ですか?
サルパはホヤに近い仲間で、透明で樽のような形をしたゼラチン質のプランクトンです。単独で漂ったり、数十メートルにもなる鎖状の群体を作ったりしながら、植物プランクトンを濾し取って食べて暮らしています。
「生物学的ポンプ」とは何ですか?
海の表層で光合成によって作られた有機炭素が、生物の活動(糞や死骸の沈降)によって深海へ輸送・貯留される一連のプロセスのことです。これにより、大気中の二酸化炭素が長期間にわたり海洋内部に隔離されます。
なぜサルパの炭素輸送が気候変動に関係あるのですか?
サルパは大量の炭素を非常に効率よく深海へ運ぶため、大気中の二酸化炭素濃度を調節する未知の役割を担っている可能性があるからです。この働きを正確に評価できれば、より精度の高い気候変動予測が可能になります。

出典

サルパ炭素循環深海プランクトン気候変動