SUBSEA DEEP OCEAN EXPLORER
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35.6°N 139.7°E
DEPTH
0m
SURFACE
深海

深海のトワイライトゾーンとは?地球の炭素循環を支える未知の世界

深海のトワイライトゾーンとは?地球の炭素循環を支える未知の世界
地球上の魚類のバイオマス(生物量)の90%以上が、水深200mから1000mの「トワイライトゾーン」に集中している可能性がある。海洋の総体積の20%以上を占めるこの広大な領域は、太陽光がかすかに届くことから薄明帯(はくめいたい)とも呼ばれるが、その生態系のほとんどは未解明のままだ。しかし近年の研究で、この未知の領域が地球の気候を安定させる上で決定的な役割を果たしていることが明らかになってきた。 ## 光も届かぬ深淵、トワイライトゾーンとは何か トワイライトゾーン、学術的には中深層(ちゅうしんそう)と呼ばれる海域は、水深200mから1000mの範囲を指す。表層から差し込む太陽光は水深200mでその99%が吸収され、それ以深では光合成は不可能になる。水深1000mに達する頃には、太陽光は完全に失われ、漆黒の闇が支配する世界だ。 この領域の環境は極めて過酷。水温は摂氏4度前後まで低下し、水圧は深度が増すにつれて強大になる。例えば水深1000mでは、指先に約100kgの重さがかかるほどの圧力だ。このような極限環境に適応するため、ここに棲む生物は我々の想像を超えるユニークな進化を遂げた。 ## 地球最大のバイオマスが眠る場所 音響探査を用いた推定によれば、トワイライトゾーンに生息する魚類の総量は、これまで考えられていた量の10倍以上、実に100億トンに達する可能性があるという。これは、現在の人類が利用している全漁業資源をはるかに凌駕する圧倒的な生物量だ。 その主役は、ハダカイワシやヨコエソといった体長数センチから数十センチの小さな魚たち。彼らはしばしば巨大な群れを形成し、海中における音波の反射層(DSL: Deep Scattering Layer)として観測される。また、クラゲやオキアミなどのプランクトン、そしてチョウチンアンコウやミツマタヤリウオに代表される、自ら光を放つ発光生物や、巨大な目、大きく裂けた口を持つ奇妙な姿の捕食者たちが、複雑な食物網を構築しているのだ。 ## 毎夜繰り返される「鉛直移動」という大スペクタクル トワイライトゾーンで繰り広げられる最も壮大な生命現象が、「日周鉛直移動(Diel Vertical Migration)」である。これは、数億トンにも及ぶ生物たちが、毎日数百メートルの距離を昇り降りする、地球上で最大規模の生物移動に他ならない。 日没と共に、彼らは一斉に海の表層を目指して浮上を開始する。その目的は、夜の闇に紛れて、光合成で増殖した植物プランクトンやそれを食べる動物プランクトンを捕食するためだ。そして夜が明ける前に、日中の明るい表層で捕食者に見つかるのを避けるため、再び光の届かない暗い深層へと沈んでいく。この大移動が、来る日も来る日も、大洋の真中で繰り返されているのである。 ## 気候変動を緩和する「生物学的炭素ポンプ」の仕組み この日周鉛直移動は、単なる生物の摂食行動にとどまらない。地球の気候システムにおいて極めて重要な「生物学的炭素ポンプ」というメカニズムの根幹をなしている。 海の表層では、植物プランクトンが光合成によって大気中の二酸化炭素(CO2)を取り込み、有機炭素を生成する。トワイライトゾーンの生物が表層でこの有機炭素を摂食し、深層へ戻って呼吸や排泄を行う。あるいは、深層で他の生物に捕食される。この一連のプロセスにより、炭素は表層から深層へと能動的に輸送され、数百年から数千年にわたって隔離されるのだ。生物の死骸や糞が「マリンスノー」として沈降する流れと合わせ、この「ポンプ」は、人類が排出するCO2のおよそ4分の1を海洋が吸収する上で、決定的な役割を果たしている。 ## OTZプロジェクトが挑む、未知の領域への最新アプローチ この重要性にもかかわらず、トワイライトゾーンは観測の難しさから「見過ごされてきた」領域だった。このブラックボックスに光を当てるべく、米国のウッズホール海洋研究所(WHOI)は「オーシャン・トワイライトゾーン(OTZ)プロジェクト」を主導している。このプロジェクトは、世界経済フォーラムなどの国際的なプラットフォームでもその重要性が共有されている画期的な取り組みだ。 OTZプロジェクトでは、自律型無人探査機(AUV)や、生物の痕跡から種を特定する環境DNA(eDNA)分析、高性能な音響技術など、最先端のテクノロジーを駆使する。その目的は、トワイライトゾーンの生態系を正確にマッピングし、そこに生息する生物量を定量化すること。そして、生物学的炭素ポンプの効率を測定し、気候変動がこのシステムに与える影響を予測することにある。 ## 深海生態系と人類の未来 トワイライトゾーンの解明は、科学的な好奇心を満たすだけではない。この生態系は、気候変動による水温上昇や海洋酸性化、貧酸素化といった脅威に晒されている。また、将来的に新たな漁業資源として商業利用の対象となる可能性も指摘されており、持続可能な管理方法の確立が急務だ。 南極の棚氷が融解し、海洋の表層構造が変化すれば、深層への酸素供給や栄養塩の循環が滞り、トワイライトゾーンの環境も激変しかねない。この深海の巨大な歯車がどう動いているのかを理解することは、地球全体の気候の未来を予測し、人類が海洋とどう共存していくべきかを考える上で、避けては通れない課題なのである。

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出典

  • The Overlooked Midwater: Deep Dive into the Twilight Zone – virtual event recording: このブラックボックスに光を当てるべく、米国のウッズホール海洋研究所(WHOI)は「オーシャン・トワイライトゾーン(OTZ)プロジェクト」を主導している。このプロジェクトは、世界経済フォーラムなどの国際的なプラットフォームでもその重要性が共有されている画期的な取り組みだ。
深海トワイライトゾーン海洋生物気候変動炭素循環