深海探査の新手法:音とDNAで生態系を暴く
モントレー湾水族館研究所(MBARI)の上級科学者ケリー・ブノワ=バード氏が、その革新的な音響技術による海洋生態学への貢献を評価され、アメリカ科学振興協会(AAAS)の2025年フェローに選出された。このニュースは、音とDNAという二つの最先端技術が、これまで謎に包まれてきた深海の生態系をいかに解き明かそうとしているか、その現状を象徴している。
## 音響技術のパイオニア、AAASフェローに選出
AAASフェローは、科学界で最も栄誉ある称号の一つだ。ブノワ=バード氏が評価されたのは、海洋生態学の分野、特に「音響技術の革新的な開発、応用、統合」への多大な貢献である (引用1)。彼女の研究は、音を使って深海生物の行動を捉えるという、いわば海の中の「耳」を研ぎ澄ませる試みだ。従来の網やカメラによる点での調査とは異なり、音響技術は広大な海の「面」を捉えることを可能にする。
一体、音で何がわかるというのだろうか。
## ソナーが暴く、深海生物の知られざる行動
研究者たちが用いるのは、アクティブ・アコースティクスと呼ばれる技術。船や無人探査機から特定の周波数の音波を発信し、プランクトンや魚、イカなどの生物に当たって跳ね返ってくる反響(エコー)を解析するのだ。身近な例で言えば、魚群探知機がこれにあたる。しかし、その精度と解析能力は比較にならないほど高度だ。
この技術により、研究者たちは生物の正確な位置や大きさ、数だけでなく、その群れがどのように動き、捕食者からどう逃げるかといった行動パターンまでをも描き出すことができる。光の届かない暗黒の世界で、生物たちが織りなすダイナミックな生命活動のドラマ。それを音響技術は可視化する。ブノワ=バード氏のような研究者たちの手によって、これまで断片的にしか理解されていなかった深海の食物網の構造が、より立体的に解明されつつあるのだ。
## 海水を"読む"、環境DNA(eDNA)という革命
音響技術が生物の「量」や「動き」を捉えるマクロな目だとすれば、生物の「種類」を特定するミクロな目が、環境DNA(eDNA)分析である。生物は、皮膚や粘液、フンなどを通じて、自らの設計図であるDNAの断片を常に環境中に放出している。この「遺伝子の指紋」を水中から検出するのがeDNA技術だ (引用2)。
つまり、バケツ一杯の海水を汲むだけで、その周辺にどんな種類のクジラが泳いでいるのか、あるいは未知の深海魚が生息しているのか、その痕跡を捉えることができる。これは海洋生物調査における革命だ。MBARIの研究者たちも、ドイツ銀行が主導する世界規模の海洋生物多様性モニタリングプロジェクトにeDNAサンプルと専門知識を提供するなど、この分野で重要な役割を担っている (引用2)。
## 二つの「目」で捉える、生態系の全体像
注目すべきは、これら二つの技術の融合がもたらす可能性だ。音響技術で「ここに巨大な生物の群れがいる」と探知し、すかさずその場所の水を採取してeDNAを分析する。そうすれば、「その群れが主に 어떤種類のオキアミで構成されているか」まで特定できるかもしれない。
マクロな「行動」を捉える音響の目と、ミクロな「種」を特定するeDNAの目。この二つを組み合わせることで、深海生態系の解像度は飛躍的に向上する。これまでブラックボックスだった生物間の相互作用やエネルギーの流れが、より詳細に理解できるようになるだろう。これは、単なる生物リストの作成を超えた、生態系そのものの機能を解き明かす試みである。
## なぜ今、深海探査の革新が求められるのか
地球最後のフロンティアと呼ばれる深海。そこは、想像を絶する水圧と暗闇に支配された世界でありながら、多種多様な生命の宝庫でもある。しかし、この未知の領域もまた、気候変動や海洋酸性化、そして将来的な深海資源開発といった人間活動の影響と無縁ではない。
深海生態系を適切に保全し、持続可能な形でその恵みを利用していくためには、まず「何が」「どこに」「どのように」生きているのかを知る必要がある。音響技術とeDNAという新たな武器を手にした科学者たちの挑戦は、まだ始まったばかり。彼らの探求が、我々人類と深海との未来の関係を築くための、重要な礎となるはずだ。
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出典
- MBARI News: Benoit-Bird was recognized for her distinguished contributions to the field of marine ecology, particularly for innovative development, application, and integration of acoustical techniques.
- MBARI News: Environmental DNA (eDNA) has the potential to transform efforts to catalog marine life. By searching for the genetic “fingerprints” organisms leave behind, scientists can get a quick snapshot of the residents of ocean ecosystems... Researchers in MBARI’s Biological Oceanography Group contributed eDNA samples and expertise to Deutsche Bank’s Monitoring Ocean Biodiversity project...